Courrèges:人気再燃の秘密を紐解く
近年、セレブリティや韓国アイドルなどが人気の火付け役となり、ファッション愛好家の若者たちを中心に人気が再燃している Courrèges(クレージュ)。そんなクレージュは、フランス生まれのファッションブランドだ。
モダンで幾何学的なモチーフが印象的であり、1960年代に大流行した宇宙がテーマの「Space Age(スペースエイジ)」ファッション、そして英国人デザイナーであるマリー・クヮント(Mary Quant)と共に、ミニスカートの生みの親として一世を風靡した。
ミニスカートの他にも、平底ブーツやリブニットなど数多くの名作を世に送り出してきた。2021年にはLouis Vuitton(ルイ・ヴィトン)やChristian Dior(クリスチャン・ディオール)などのメゾンや、アンドレ・クレージュ(André Courrèges)自身が以前働いていたBalenciaga(バレンシアガ)などで長年の経験を持つニコラ・ディ・フェリーチェ(Nicolas Di Felice)をアーティスティックディレクターに迎え、現代的な視点でブランドを捉え直し、今もアンドレ・クレージュのレガシーを受け継いでいる。
Courrègesー歴史と進化
クレージュ創業者であるアンドレ・クレージュ(André Courrèges)
ブルジョアジーへの反骨精神
クレージュは、デザイナーの André Courrèges(アンドレ・クレージュ)が自身の名を冠して 1961 年に誕生したクチュールメゾンだ。彼は20世紀で最も影響力のあるデザイナーの1人であり、一夜にして女性の服装に変革を与えた。
それまで女性の服装は型にはめられたファッションが当たり前という認識だった中で、クレージュというファッションブランドは、クチュールとデザインの世界に革命をもたらし、ファッションの制約から女性を解放した伝説的存在として知られている。
彼は近未来的な審美眼で一時代を築き、1964年には「スペースエイジ(Space Age)」コレクションを発表した。角ばったミニドレスやパンツスーツなどの多くの衣装は背中が切り取られ、ノーブラで着用されていた。
これらには、宇宙飛行士が着用する装備から取り入れたフラットなブーツ、ゴーグル、ヘルメットが合わせられた。その荒涼とした形と白と銀の配色は、かの有名なスペース・エイジと呼ばれるようになった。
その後、90年代には絵画や彫刻などのアート活動に時間を捧げるため、ファッション業界から引退した。新社長と共同社長である、ジャックス・ブンガートとフレデリック・トルラティングは、2011年1月にクレージュ社を買収。そして2015年、セバスチャン・メイヤー(Sébastien Meyer)とアルノー・ヴァイヤン(Arnaud Vaillant)、その後、2018年にヨランダ・ゾベル(YOLANDA ZOBEL)がアーティスティック・ディレクターへ就任。その際、ヨランダはアンドレ・クレージュについて、インタビューでこう述べている。
「アンドレ・クレージュはブルジョアジーへの反骨精神を備えたアヴァンギャリストでした。彼は、服を通して女性を自由にした。伸縮性のあるストッキング生地やビニール、フラットブーツ、ショートボトムによって、女性はしゃがんだり、ジャンプしたりと、自由に動ける。この革命にとても共鳴するんです」※1
第二次世界大戦中にフランス空軍のパイロットに従事したアンドレは、1950年からファッションの道に進んだ。クリストバル・バレンシアガ(Cristóbal Balenciaga)のもとで 10 年間働き、1961年に独立。バレンシアガのアトリエで出会った、妻であり生涯のクリエイティブ・パートナーであるコクリーヌ・バリエールと共にパリでメゾンを開設。そして1964 年、後にスペースエイジファッションと呼ばれるようになる「The Moon Girl(ザ・ムーンガール)」コレクションで一躍注目を浴びた。
1965年には「Mini Look(ミニ・ルック)」と呼ばれるミニスカートを発表し、爆発的なヒットを記録した。
当時、女性が膝を見せることは珍しい時代であったため、非常に革新的なデザインとして大きな注目を集めた。「未来の色」だという白を基調にしたコレクションは、直線的なカットや、プラスチックやPVC 、ビニールなどの新しい素材を用いたことでも知られている。先進的なカッティングや素材により、より動きやすく、女性の体を解放する衣服が提案された。また、この「ムーンガール・ルック」では、特に「ゴーゴーブーツ」と呼ばれた白い平底ブーツが一般消費者にも大きな影響を与えた。このように、同時代に活躍していたパコ・ラバンヌ(Paco Rabanne)やピエール・カルダン(Pierre Cardin)と共に、クレージュは宇宙旅行から着想を得た未来的なスタイルで、60年代のファッションに変革をもたらした。
また、彼は60年代を代表するシルエットとして三角形のシフトドレスを世に送り出した。幾何学的なフォルムと原色を好み、モダニズム建築家でありデザイナーのル・コルビュジエ(Le Corbusier)を崇拝した。
Givenchy(ジバンシィ)のユベール(Hubert)によれば、オードリーヘップバーン(Audrey Hepburn)が1965年の『百万人の泥棒たち』で使用した帽子は、アンドレ・クレージュの未来的なスタイルに真のインスピレーションを与えたという。
左 1965年に公開された映画『百万人の泥棒たち』でのオードリーヘップバーン、右 映画で着用された帽子に影響を与えたCourrègesの未来的なデザイン©︎FORMIDABLE MAG
スペインのポルト・リガットにあるクレージュの家で撮影された写真。デンマークのモデルとサルバドール・ダリ©︎FORMIDABLE MAG
「私の問題は豊かな刺繍や無駄な豪華さではない。それは、飛行機を設計するエンジニアのように、機能的な問題を調和的に解決することだ。」※2
ローズ&ジャクリーン・ケネディ(Rose Kennedy, Jacqueline Kennedy)、グロリア・ギネス(Gloria Guinness)、ポーレット・ゴダード(Paulette Goddard)、フランソワーズ・アルディ(Françoise Hardy)、ウィンザー公爵夫人、リー・ラジヴィル(Lee Radziwill)などが彼のデザインを身にまとった。
フランスのTV番組”Dim Dan Dam”1965年10月28日の放送回より。
— ジュヌヴィエーヴ金子 (@anouchkavintage) May 3, 2023
“La mode est à l’op art”というタイトルでオプ・アートのモードを取り上げています。
衣装はミシェル・ロジエ、エマニュエル・カーン、アンドレ・クレージュ、カトリーヌ・シャイエ。
監督は『アンナ』(1966)、「ガラスの墓標』(1969)の→ pic.twitter.com/dw80a5Pyhj
フランスのTV番組”Dim Dan Dam”1965年10月28日の放送回。衣装はミシェル・ロジエ、エマニュエル・カーン、アンドレ・クレージュ、カトリーヌ・シャイエ。@anouchkavintage
コレクションで辿るCourrèges
2022年春夏コレクション
「Both of us knowing」(二人で知る)をテーマとした本コレクション。このテーマはニコラス・デ・フェリーチェが、パーティーを通して友情の時間を呼び起こした経験に基づく。パーティーで群衆が一斉に親密さを高めるように、クレージュと観客も一体になりたいとの願いが込められている。(FASHION PRESS)
スポーティーでミニマルなフェスティバルウェアをベースとし、ミニスカートやフレアパンツを用いた。ブランドのアイコニックな「ミニ・ルック」や「パンタロン・ルック」など、プリントTシャツやタンクトップにより、カジュアルなルックスを完成させた。
コレクションのキーとなるのは、1976年に登場したドレスのストラップから着想を得た交差するヨークのデザインだ。このループは、ドレスやスカート、ブラジャーなど、あらゆるアイテムに幾何学的なリズムをもたらす。
インターネットで話題となった2022年秋冬コレクション「Re-Edition」
クレージュが現代のファッション愛好家たちの中でトレンドとなっているのをご存知だろうか。
ブランドの持つアイコニックなスタイルを現代へと昇華させたモダンなスタイルが高く評価され、セレブリティやインフルエンサーを始め、インターネットで注目の的となった。
特に話題となったのは、「スペースエイジ」のリバイバルであるビニールジャケットのセットアップだ。クレージュが得意とする台形スカートとパンキッシュな女性像を彷彿とさせる。令和のクレージュとしての新しいスタイルで魅了した。
REEDITION VINYL JACKET Red 、REEDITION VINYL JACKET Blue©︎Courrèges
2022-23秋冬コレクション
現代のムードを纏った幾何学的なモチーフで観客を魅了した。
デザイナーであるニコラス・デ・フェリーチェによる本コレクションでは、60年代の「スペースエイジ」を彷彿とさせる台形スカートなどのアイコンアイテムが復活。
印象的なひし形のカットアウトが繰り返し提案された。クレージュのアイコンであるビニール素材でできたキャミソールドレスではサイドをひし形に。タートルネックのトップスではサイドやアーム、首元をひし形に切り抜くことで、ワントーンのシンプルなウェアが、主役級のアイテムへ様変わりした。
現代の若者を捉え直した先は、自由でクールなイメージ
2023-24年秋冬コレクション
モデルたちが携帯電話の画面からの逆光を浴びながら登場した本コレクションでは、光により闇や自然の中で服のフォルムが際立った。まさに日常を描写したそのフォルムは、前半ではボディラインを覆い隠すように曲線的だったが、後半になるに連れて体にぴったりと合わさるようなボディラインの強調など、ロマンティックなディティールが加わっていった。
腹部に丸いカットアウトを施したトップスや、シアーでナイロン素材のドレスなど、体のラインが浮き彫りになる。ボディラインの強調は、自分自身の主張であり、それにより自由を表現した。
日食をイメージさせる円形のミラーは、視線を携帯電話の画面から上へと向け、世界における自分の存在を見つめることの重要性を説くと同時に、自分のありのままの姿が自己実現の道しるべに成り得る、という希望的なメッセージが感じられた。(FASHION PRESS)
携帯電話について、デ・フェリーチェはVOGUEのインタビューでこう語る。
皆いつも携帯で何かしら検索していますよね。僕も彼と一緒にいる時でさえ没頭してしまうことがあり、そのシルエットをコレクションにしてみようと思いつきました。ちなみに、こうしたハイテクには役立つ面もありますが、最近取り沙汰されているAIには疑問を持っています。雇用を奪われるなど、人間に取って代わる恐れもある。そんな世界で、子供たちははたして夢を持つことができるでしょうか。1960年代の風潮もあり、アンドレ・クレージュは未来志向だと言われていて僕もそうですが、生身の人間同士が一緒にいることができる未来を望んでいます※3
2024年春夏コレクション
女性パイオニアの力強さにフォーカスし、男性主導である歴史の象徴を見直した。アマゾネスのような強さを表したというガラスのブラも登場。
会場はロゴが設置された円筒形の建物であり、真っ白な空間の中央にある四角形の床は硬くなった白い粘土のようなものに覆われていた。モデルたちが歩くたびに音を立てて地面が割れる様子が印象的なショーだった。
モノトーンを中心としたベーシックなアイテムだが、シルエットはアシンメトリー。ファスナーやボタンに縁取られたスリットから肌が見え、バイカージャケットやジュエリーにリンクする、ガラスのようなブラが並んだ。
ニコラス・デ・フェリーチェはバックステージで今季は「プレコレクションの続きで、とてもシンプルなんです」「誰にも着方を強制したくない」と述べており、肌の見え方はファスナーなどで調整可能に。また、円や楕円形のパターンが用いられているという。
「幾何学的なモチーフはブランド創設者のアンドレ・クレージュ的だけど、柔らかい素材使いはそうではないかもしれません。でも着る人が動くとそのすばらしさがわかります」
と語った。※4
2025年春夏コレクション
メンズ・ウィメンズコレクションでは、寒さが深まる中で灰色の雲の向こう側に輝く太陽を夢見ることが、今季のクレージュの発想にあった。昨年の冬は、ここ数十年のパリでもっとも長く続いた冬であったという。
今回のコレクションでは、ミニマルな造形性をベースに置いた。トレンチコートのフロントには曲線を描く襟を、スリーブにはスリットを。そのようにして洗練された線の力で、独特のフォルムを生みだした。ミニドレスは、曲線を描くトップとスカートという簡潔な構成によって、存在感あるフォルムを与えた。装飾性を抑制することで、全体のシルエット自体が引き立つよう作られた。
カラーは、冬の曇り空を彷彿とさせるグレーを軸に、ミニマルな佇まいに呼応するベージュやブラックを採用。さらに、曇り空の先の太陽に思いを馳せるかのように、鮮やかなレッドやイエローも大胆に用いた。(FASHION PRESS)
セレブリティとCourrègesの道標
近年、往年のスタイルを現代のモダン・スタイルへと昇華させ、ビヨンセ(Beyoncé)、アリアナ・グランデ(Ariana Grande)カイリー&ケンダル・ジェンナー(Kylie Jenner, Kendall Jenner)など、多くのトップセレブをトリコにしているクレージュ。
そんなセレブリティたちにフォーカスし、クレージュの人気アイテムとコーディネートをいくつかピックアップしていく。
まずは、女優アニャ・テイラー・ジョイ(Anya Taylor-Joy)。普段からクレージュ愛好家である彼女が着用するのは、クレージュのアイコニックなロゴが入ったセットアップのピンク。
ハリウッドで行われたグラミー賞の鑑賞パーティーでは、夫のマルコム・マクレー(Malcolm McRae)と共に登場。真っ赤なセットアップとブラックのロングブーツを合わせた’60sスウィンギング・ロンドンを彷彿とさせるコーディネートを披露。まるでステージに立つロックガールのようなスタイリングが光った。
ビニール素材のセットアップは、クレージュ特有の「スペースエイジ」スタイルが際立つ主役級のアイテムだとわかる。
Netflixドラマ「エミリー、パリへ行く」ではリリー・コリンズ(Lily Collins)がロゴパッチクロップドジャケットを着用して話題に。ロゴジャケットの人気の高さが伺える。
ビヨンセ(Beyoncé)は、2023年のワールドツアー「ルネッサンス」のスウェーデン・ストックホルムでのライブでボディスーツを着用。クールでゴージャスなスタイルが人気のビヨンセは、クレージュの衣装を着用することで、女性のエンパワメントから黒人のプライドまでを華麗に体現。圧巻のパフォーマンスを繰り広げた。
次世代のトレンドバッグ「ホーリー」
ヘイリー・ビーバー(Hailey Bieber)が着用したのは、「ホーリー」。デュア・リパ(Dua Lipa)やエミリー・ラタコウスキー(Emily Ratajkowski)などセレブの中で次世代のイットバッグとして注目を集めている。
近年のミニマリズムトレンドに伴って、シンプルでありながら、なめらかなカーフレザーに小さくエンボス加工されたロゴを装飾したこのバッグは、クワイエットラグジュアリーのムードを踏襲。
今年2月に開催された2024-25年秋冬コレクションは、「ホーリー」がお目見え。人気シンガーであるチャーリーXCX(Charli XCX)やエミリー・ラタコウスキーなどセレブが揃って「ホーリー」片手に来場した。ニコラス・デ・フェリーチェがゲストデザイナーを務めたJean-Paul GAULTIER(ジャンポール・ゴルチエ)の2024-25年秋冬オートクチュールコレクションでは、エマ・チェンバレン(Emma Chamberlain)がグローブとマッチしたマホガニーカラーのタイプを掲げて参列した。
「ホーリー」を着用するヘイリービーバー ©︎VOGUE JAPAN
クレージュは、常にトレンドの最先端にいる韓国アイドルたちにも人気だ。
人気ガールズグループであるaespaは2022年に公開された「Girls」のMVにてクレージュのアイコンであるビニール素材のロゴが入ったチューブトップやレザージャケットを着用し、話題となった。
左 BLACK PINK ジェニー、真ん中 LE SSERAFIM カズハ、右 TWICE モモ©︎ELLE
女性の解放を謳ったクレージュとともに
アンドレ・クレージュは、クレージュというブランドを持って服を通して女性を解放した。窮屈な女性のファッションへのイメージを刷新した。アイテムに伸縮性を持たせることで、女性は自由に動くことができるようになった。いつの時代も、クレージュのアイテムを手に取る瞬間、この革命に目を奪われ、共鳴した。第三次ブームを迎えるクレージュだが、人気に火がついたポイントとなるのは着眼点だ。彼は、機能性の良いデザインをクリエイションすることで、女性に未来を与えた。女性たちの動きにくさからの解放を謳った。
"You have to distinguish between style and fashion. Fashion changes, style is what perpetuates itself over time and whose personality is recognized."(スタイルとファッションは区別しなければならない。ファッションは変化するものであり、スタイルとは時を超えて永続するものであり、その個性が認められるものである。)※5
彼は、自分のブランドを「体現」したり「代表」したりするために有名人を起用したことはなく、常に「すべての女性」のためのファッションを作りたいと主張してきた。
アンドレクレージュが訴えたその価値観と行動規範は、今もデザイナーから尊重され、忠実に守られている。
クレージュは、時代を超越したコレクションを独自の視点で提案し、その足跡を残してきた。これからも、新しい時代をかたち作っていくだろう。