SIEDRÉS:地中海の風吹く空想の街に想いをはせて

SIEDRÉS:地中海の風吹く空想の街に想いをはせて

SIEDRÉS(シエドレ)はセイリーン・ビルゲ(Ceylin Türkkan Bilge)と夫のエミール(Emir)が2019年に創設したトルコのファッションブランド。エレガントさと快適さを兼ね備えたモダンで洗練されたデザインが魅力だ。地中海の温かさと楽しさを体現するこのブランドは、地域の職人技術と持続可能性を尊重しながら、ユニークでタイムレスなアイテムを提供している。

本記事では、そんなシエドレのブランドヒストリーと魅力に迫る。

夫婦duoの最強タッグ

デザイナーであるセイリーンは幼少期からデザインに興味があり、物心ついたときには常に何かを描いたり作ったりしていたという。かつての夢はインテリアデザイナーになることだったが、高校の終わりごろから少しずつファッションに興味を持ち始め、大学ではファッションを学ぶことを決意。ニューヨークファッション工科大学(FIT NewYork)とイスタンブール工科大学(ITU Istanbul)でファッションデザインを学び、在学中は、イスタンブールを拠点とする水着ブランドのビーチウェアコレクションのデザインを担当した。

卒業後は、ニューヨークのアダム・リップス(Adam Lippes)で6か月間のインターンシップを経験。その後イスタンブールに戻り、Istanbul 74でアートディレクターとして働き始める。その後デザイナーとしてメタップ・エライディ(Mehtap Elaidi)の下で働き、2019年9月、ファッション愛好家エミールとの結婚を機に彼と2人でSIEDRÉS創立。

左 エミール、右 セイリーン©︎ Forbes

以降、妻のセイリーンがデザインを、夫のエミールがビジネスサイドを担当している。立ち上げの時期にCOVID-19が発生したものの、その期間はブランドのビジョンを伝えるためにソーシャルメディアを積極的に活用。そして、インフルエンサーとの協力を通じて現在のエージェンシーやショールームに注目され、海外での販売をスタートした。

2人の共通の夢"SIEDRÉS"

「エミールと私は長い間、トルコの地中海沿岸に移り住み、ブティックホテル、レストラン、アトリエに囲まれた居住空間を作り上げるという夢を抱いていました」というセイリーン。自身も幼少期を地中海近郊のトルコの街で過ごした彼女は、地中海の美しさとそこで暮らす人々のライフスタイルがブランド発足のインスピレーションとなっていると語る。 ブランド名「 SIEDRÉS」は、彼らがいつか住みたいと考える、地中海沿岸の気持ちよく晴れた、陽気でスイートな架空の町からインスパイアされた名前だという。2人は長い間熟考を重ね、言葉の響きや調和を重視しながら、地中海の雰囲気を感じさせる名前を選定した。

そんなシエドレのイメージする女性像は、「地中海の町で夕方の太陽が沈む前に陶芸スタジオや石鹸屋を閉め、自転車で海岸に向かうような生活を送る人、日常の喧騒から解放され、一杯のワインで日没を楽しむことができる“今”という瞬間を心から楽しむ人。色や柄を組み合わせて、自分の幸せのためにドレスを着るのが好きな人。最も重要なのは、どこに行っても、家にいても、何をしていても自分のスタイルのある人」だという。こうした具体的なイメージから、着やすさを重視し、素材やテクスチャーにも焦点を当てた服を作っているのだそうだ。

代表的なコレクションとデザイン

ファーストコレクション ー2019

シエドレの最初のコレクションであるResort 2019は、トルコの都市ブルサでの思い出にインスパイアされたデザイン。このコレクションは、彼女とイスタンブールとの深いつながりを象徴する、祖母から受け継いだエッセンスが組み込まれている。

地中海のライフスタイルを表現したコレクション ー2020

この年のSSコレクションは、トルコの湾岸都市ボドルムで過ごした夏の日々からインスパイアされている。このコレクションは、ボドルムが象徴する地中海沿岸のライフスタイルを反映しているパターンが特徴。

2020年12月には“SIEDRÉSの町を創り出す”という夢を抱いて、ポップアップショップ「Casa Siedrés」をロンドンにオープン。

シグネチャーパンツの誕生 ー2022

この年のSSコレクションは、1960年代の夏、イスタンブールのプリンセス諸島に住む女性たちからインスピレーションを得て創り出された。セイリーンは、「プリンセス島やボスポラス海峡の豪華な別荘を中心とした、かつての華やかなライフスタイルを再現したかった」と語る。

プールサイドに集い、カクテルを片手に交わされる色とりどりの会話、そして日が沈む頃、彼女たちの顔に映るカクテルの影。そんな彼女たちが複雑なデザインのドレスをまとい、音楽に合わせて踊る光景を想像してデザインしたという。このコレクションは、鮮やかな色彩と、時代を懐かしむようなカットが特徴で、過去の記憶を呼び起こすようなデザインが魅力。

特に、祖母のテーブルクロスにインスパイアされたプリントが施された「MULTパンツ」は、モデルのヘイリー・ビーバーによって愛用され、ブランドのシグネチャーパンツとなった。

「MULTパンツ」©︎ BRITISH VOGUE

同コレクションにてメンズラインがスタート。レディース同様、快適でカラフル、陽気なスタイルをメンズのコレクションにも反映。

2022年AWコレクション「Psych Ride」では、架空のサイケデリックな冬の町を舞台に、幻想的でカラフルな世界を展開。このコレクションは、1960年代のロンドンのサイケデリックなムードにインスピレーションを受けている。特に、オランダのアーティスト集団「ザ・フール(The Fool)」の手がけたアップル・ブティック(Apple Boutique)のデザインやビートルズのアルバムカバーに着想を得たそう。

セイリーンは、「60年代のサイケデリックなスタイルを現代に取り入れ、私自身のバックグラウンドと組み合わせました。SIEDRÉSは夏のブランドというイメージが強いかもしれませんが、私は山間の街で育ち、冬のほとんどをスキーで過ごしました。これらの美しい思い出が、このコレクションのインスピレーションとなりました。」と語る。スキーとアフタースキーの両方に対応する防水アイテムも展開しており、色鮮やかできらめく万華鏡のようなプリントが特徴。

イベント開催 ー2022

SIEDRÉS FW 2022 ‘’Psych Ride’’

2022年12月の暮れにマドリードで開催された、シエドレとソーホーハウス(Soho House)とのコラボレーションによるイベント「Psychedelic Circus(サイケデリック・サーカス)」。70年代ディスコの永遠の魅力を土台に、魔法のようなSIEDRÉSワールド作り上げた。

「サイケデリック・サーカス」©︎ GABFOODS

限定コレクション ー2024年SS

スペインのハイストリートブランド、マンゴー(mango)とコラボレーションした2024年SS限定コレクション「Sun-Soaked Summer Capsule」(訳は「太陽が降りそそぐ夏のカプセル」)。2000年代のビーチクラブスタイルを讃えたコレクションで、大胆な色彩、遊び心のあるパターン、気楽でボヘミアンな精神が特徴。ノスタルジックなY2Kの美学を強く取り入れている。

シエドレ×マンゴーのコレクション ©︎ BRITISH VOGUE

ユニークでありながらも手に取りやすい価格のコレクションを創り出す機会となったこのコレクションでは、クロシェ編みと刺繍の精巧な使用、ハイビスカスの花柄プリントなど、同ブランドの特徴的なモチーフのいくつかを強調している。セイリーンは、ハイビスカスの花柄プリントは“コレクションの要”であり、“太陽が降り注ぐ海岸での思い出を呼び起こす”と述べている。鮮やかなパレットとゆったりとしたドレス、遊び心の感じられるシルエットで、気楽で活気のあるブランドらしいコレクションを作り上げた。

インスピレーション源は地中海への愛

地中海とエーゲ海の風、こだわりの着心地、官能的なパターン、様々なカラー、テクスチャーはシードレスに欠かせない要素。最大のインスピレーション源は、地中海のライフスタイル。

「海岸沿いを散歩しているときに目に留まる模様、色、質感は、私たちの創作プロセスに大きな影響を与えます。ビーチパラソルのようなシンプルな要素でさえ、色選択の指針になります。海と空の自然な調和、地元の建築物の鮮やかな色、私たちが観察するすべてのディテールが、私たちのデザインに織り込まれます。」とセイリーンは語る。地中海で目にしたもの全てが独自の色彩、パターン、質感を生み出す要素となり、デザインに反映されているのだ。

また、トルコの伝統的な芸術や職人技からも多大なインスピレーションを得ているそう。機械化や大量消費が進み、職人の技を守ることは年々難しくなる中、田舎やアナトリア半島に残る美しい織物や手仕事、デザイン、自然染色技術を守り、そのコミュニティに貢献したい、と語るセイリーン。

リゾートコレクションで人気のブラウンのバルーンドレスにも、トルコの伝統的な素材が使用されていたり、これらの素材を積極的に取り入れるよう努めているという。また、製造が終了したり少量だけ残っている素材を用いることにも関心があり、限定アイテムを作ることで、素材と職人技の重要性を強調しようとしている。さらに、余剰素材の環境への負担を考慮し、在庫素材を優先的に使用しているという。

地元のコミュニティへの貢献にも力を入れており、シグネチャーとなった「MULTパンツ」にあしらわれた色鮮やかな万華鏡のようなプリントなども含むデザイン画や試作品は、イスタンブールにある専用のアトリエで作成され、生地の一部は彼女の故郷ブルサの工場で作られている。

ランドのビジョンとスタイルは、アメリカの作家Leandra Medine(レアンドラ・メディーン)、ウクライナのスタイリスト兼ファッションディレクターJulie Pelipas(ジュリー・ペリパス )、イギリスのファッションモデルKate Moss(ケイト・モス)のスタイルから影響を受けているという。それぞれ異なる視点と独自性が、ブランドのデザインにも反映されている。

レアンドラ・メディーン ©︎ BRITISH VOGUE

ジュリー・ペリパス ©︎ SHOW studio

ケイト・モス ©︎ harpers BAZAAR

おわりに ーブランドの現在と未来の展望

ファッションブランドとしてスタートしたSiedrèsだが、本当に作りたいのはライフスタイルだという2人。バッグや靴のコレクション、そしてホームデコール製品への展開。さらに、カフェやレストラン、ホテルのプロジェクトを通じて、広範なライフスタイル空間を作り出すことも計画しているという。セイリーンとエミールが夢見た地中海の町を体験できる日が楽しみだ。