THE ATTICO:正反対の2人が描く夢のワードローブ

THE ATTICO:正反対の2人が描く夢のワードローブ

ストリートスナップでもお馴染み、ジョルジア・トルディーニ(Giorgia Tordini)とジルダ・アンブロジオ(Gilda Ambrosio)。正反対の2人が織りなす独自のスタイルが特徴のブランド、THE ATTICO(ジ・アティコ)が2016年、イタリアのファッション界に降臨。イブニングウェアの斬新なアプローチで注目されていた同ブランドだが、現在はバッグやアクセサリー、スイムウェアまで、女性のワードローブの完成を目指して幅広く展開している。

左 ジョルジア、右 ジルダ © W magazine

ファッションは自己表現の言語

ジョルジアとジルダは、それぞれ幼少期からファッションと密接な関わりを持って育ったという。

ジョルジアは1987年、イタリアの海沿いの小さな町で生まれた。仕立て屋であった祖母の影響を受け、ファッションに目覚めたという。12歳の頃からヴォーグを参考にして、祖母にお気に入りの服を再現してもらっていたそう。その後、ミラノの名門デザインスクールヨーロッパデザイン学院(Istituto Europeo di Design)でファッションデザインを学ぶ。

ジルダは1992年にナポリで生まれた。ジルダの祖母のブティックを経営しており、そこで試着して遊んだり、服とアクセサリーの組み合わせ方をお客様にアドバイスし販売の腕前を見せたという。その後、ミラノの名門ファッションスクール、マランゴーニ・ファッション学院(Istituto Marangoni)で学ぶ。

2人のスナップ © VOGUE

在学中に出会ったこの2人はすぐに意気投合。卒業後、それぞれ雑誌やコンサルタントとして成功を収めたが、彼女たちの真の情熱はデザインにあった。ニューヨーク・ファッションウィークをまわるため、タクシーの後部座席で過ごした時間が、彼女たちにとっての転機となったという。2人で雑談していた時、ブランドのアイデアが生まれたのだ。彼女たちはその後、数晩で「The Attico」を誕生させたという。

”ペントハウス”という生き方

ブランド名「The Attico」は、イタリア語で「ペントハウス」を意味する。この名前には、単なる住まいの場所を超え、「アティテュード(態度)」が最も重要だ、というメッセージが込められているという。

ジョルジアとジルダは、モダンで自由な感性を持ち、大胆で強いパーソナリティを持つ女性たちの生き方を体現するブランドを目指しているのだ。そしてこのブランド名は、スローガン「Join us upstairs(上階へおいで)」と相まって、彼女たちのビジョンを表現し、デザインに象徴的な意味を反映させている。

Instagramの投稿でも#Joinusupstairs ©︎theattico

二人のデザイナーが織りなす対極的なスタイル

ジ・アティコの特徴は、創業者であるジョルジアとジルダの対照的なスタイルにある。ジョルジアがミニマル、クラシック、そしてタイムレスな美学を追求する一方で、ジルダはエクレクティック、破天荒、そして少し風変わりなスタイルを好む。この対極的なスタイルが一つのブランドに融合することで、グラマラスで大胆でありながらもタイムレスな、独自のスタイルが生まれた。

「2つの異なるスタイルを1つに合わせることで、クローゼットに残り、いつまでも着てもらえる、時代を超越したドレスを作りたいと思っていました。」と語る2人。ブランドをコミュニティ化することを目標に、ブランドの基盤強化に力を入れてきたという。

SNSが導いたジ・アティコの成功

ジョルジアとジルダは、ブランド設立前から人気のインフルエンサーだった。彼女たちのSNSアカウントは合わせて100万人以上のフォロワーを持ち、その影響力がブランドの認知度向上に大いに役立ったという。

SNS、特にインスタグラムは、ブランドの立ち上げにおいて重要な役割を果たした。ブランド設立当初、2人のインスタグラムに投稿された写真が、NET-A-PORTERのファッションディレクター、リサ・エイケン(Lisa Aiken)の目に留まり、ミラノコレクションへの招待につながるきっかけとなったのだ。

リサ・エイケン© Precious.jp

年代順にピックアップ!

ジ・アティコ創業 ー2016年

初めてのイブニングウェアコレクションを発表し、瞬く間に注目を集める。ブランド名である「ペントハウス」のコンセプトを反映した、豪華で洗練された夜の装いが中心だった。

2016RTW Fall © WWD

BoF 500に選出 ー2017年

ジョルジオとジルダがイギリス発のファッションメディア「ビジネス・オブ・ファッション(The Business of Fashion)」の「BoF 500」に選ばれた。これは、BoFの編集者がファッション業界で最も影響力のある人物を選出しリストアップしたデータベースで、2人が世界のファッション界で影響力を持つことが証明されたのだ。

©︎Forbes

ジュエリーデザイナーとコラボレーション ー2018年

トルコ人ジュエリーデザイナー、アリカン・イコス(Alican Icoz)とのコラボレーションがスタート。

アリカン・イコスとのコラボアイテム© VOGUE JAPAN

同年ジルダは、フォーブス誌(Forbes)の「ヨーロッパで最も影響力のある30歳未満の30人の一人」に選ばれた。

新たな展開とコラボレーション ー2019年

バッグやアクセサリーラインなどワードローブへの展開を開始。

さらに同年、Re/Done(リダン)とのデニムプロジェクトも話題に。 これまで、Hanes(ヘインズ)、Bass(バス)、Champion(チャンピョン)といったアメリカの伝統的なブランドとのみコラボレーションを行ってきたリダン。その志向は、リダンの創設者ショーン・バロン(Sean Barron)がパリでジョルジアとジルダに出会ったことをきっかけに変わったという。ショーンは彼女たちのリダンの服の独特な着こなしに驚き、興味を持ったのだ。その後、3人でビジネス哲学について話すうちに”過去を尊重する”という共通点を見出し、初のコラボレーションが実現されることになった。

このコラボレーションでは、刺激的なヴィンテージピースを発掘し、様々な角度からの再加工を挑戦。伝統的な着物から花柄のドレス、古着のリーバイス・ジーンズまで、服は解体され、新たに組み直されて新たな命が吹き込まれた。襟を大きくしたり、袖の形を変えたり、丈を調整したりすることで、現在のトレンドに大胆なレトロなタッチが加えられている。

リダンとのコラボアイテム© PROMOSTYL

コレクションの展示を開始 ー2021

Googleトレンドで「アティコ」の検索が急増。彼女たちはミラノのプライベートアパートでコレクションの展示を開始した。「Join us upstairs(上階へおいで)」というスローガンの通り、”自分たちの家”に人々を迎え入れ始めたのだ。 以降、パーティーウェアの日々から進化し、高級ファッションハウスとしての地位を確立。彼女たちは、”女性にとって何が魅力的か”を深掘り、20時から朝5時までだけでなく、24時間女性をドレスアップするブランドにすることを決意する。

同年、そんな変化を体現する「Last Minute handbag collection」が発表。各バッグには「MONDAY」「FRIDAY」「SATURDAY」「SUNDAY」「11 AM」「12 PM」「6 PM」「8.30 PM」と、曜日や時間をテーマにしたタイトルがつけられている。それぞれのバッグは、日常生活のさまざまなシーンや時間帯に合わせてデザインされており、新しいThe Atticoのスタイルを反映したアイテムとして注目を集めた。

©︎ LES FACONS

また同年、「State of Nature」と名付けられたカプセルコレクションを発表し、ビーチウェア業界に参入。

ビーチウェア©WWD

NYに初進出 ー2022

ニューヨークのウースターストリートでポップアップストアをオープンし、その影響力をさらに拡大。 オープン記念パーティーは、NYで最もセクシーなバーと言われるマンハッタンの「The Nines(ザ・ナインズ)」で行われた。店内にはブランドのトレードマークである羽飾り、スパンコール、アニマルプリントが全面に施されており、ブランド独自の世界観を自身のドレスに反映させたセレブたちが集まった。ディナーが振る舞われた後には、ディスコクイーンのライブがはじまり、招待客は朝までオールナイトでブランドの世界観を楽しみ、オープンを祝った。

NYで行われたパーティー ©VOGUE

ミラノ・ファッションウィークデビュー ー2024

この年初めてミラノ・ファッションウィークに参加し、SSコレクション「The Morning After」を発表。このコレクションはクラブ帰りの朝の時間帯にインスパイアされており、クラシックなイタリアンスタイルとの融合が特徴だ。

ミラノ・ファッションウィーク©forbes

発見と革新を求めて

デザインは、旅先で集めたヴィンテージピースやインテリア、建築やアートなど様々なものからインスピレーションを受けているという。彼女たちのデザインの特徴である、独特のエレガンスとタイムレスな魅力はこうしたものから生み出されているのだ。 また、ジェーン・バーキン(Jane Birkin)、ビアンカ・ジャガー(Bianca Jagger)、ヴェルーシュカ(Veruschka)など、パワフルな女性たちにもインスパイアされ、コレクションの中には彼女たちの名前が付けられたアイテムも。

ジェーン・バーキン(Jane Birkin)©︎Vogue

ビアンカ・ジャガー(Bianca Jagger)©︎ELLE

ビアンカ・ジャガーの名前に由来するパンツ ''Jagger'' emerald long pants © the attico

ヴェルーシュカ(Veruschka)©︎ELLE

最近では、自分たちのクローゼットを見て、本当に着たいものは何かを考えるところから始めるというThe Atticoの2人。彼女たちのムードボードに常にあるものはない。毎シーズンごとに新しい発見をし、革新を続けることに注力しているという。

おわりに

The Atticoは創業当初、イブニングウェアを中心に展開していたが、現在ではデイウェア、バッグ、アクセサリーやスイムウェアなど多彩なアイテムを取り揃える、ライフスタイルブランドになりつつある。 2024年9月のミラノファッションウィークでは、2025年春夏コレクションの発表が予定されており、ジョルジアとジルダの個性やスタイルがさらに反映された魅力的なコレクションが期待されている。彼女たちの理想のワードローブがどう進化していくのか、今後の展開が楽しみだ。